「佐伯祐三特集」を我がホームページに掲載したのが4月16日.......その後5月下旬のある日、帰宅途中に立ち寄ったツインタワービルの11階にある三省堂書店で「天才画家『佐伯祐三』真贋事件の真実」(落合莞爾著)を発見、そう言えばそんな話を聞いた覚えがあり好奇心が芽生え、直ちに買い求めて読み耽った。
平成6年ごろ、大量(数十枚)の「佐伯作品」と関係資料の存在が明らかとなり、その真贋を巡って降って湧いたように起きた一大論争を扱った本で、著者自身がその謎を追い調査し推理した経緯が克明に記されている。
過程で明らかになったコレクション(?)の当事者「吉薗周蔵」なる謎の人物と佐伯祐三との関係、佐伯自身の性向や佐伯夫婦の微妙な関係、佐伯祐三の「現場描画」主義への疑問、米子夫人の加筆の可能性などなど、書かれている知られざる事実(?)に驚かされる。作品とともに保存されていて発表された吉薗周蔵の手記や米子夫人からの手紙などを筆跡鑑定し、その内容を色々な資料を参照しながら克明に検証したものである。
推理小説を読むような感じで面白いが、この著者はこれらの作品や資料は限りなく本物に近いと主張している。
福井県武生市ではこれらの作品を土台に美術館建設計画が持ち上がったものの、画商達の鑑定機関(東京美術倶楽部)の出した「贋物」との結論や、武生市準備室の「付属資料に疑問が多く本物とは言えない」などとの答申で結局計画は流れ、「真贋騒動」は現在のところ贋物説に落ち着いているようである。しかし落合莞爾氏はなお科学的検証も加え贋物説と美術界の不可解な体質の解明に闘志を燃やしている由、次なる著作の発表が待たれる。
ただ当時(平成8年)の「芸術新潮」誌(4月号)に掲載された問題の作品16点を見る限りこれが佐伯祐三の絵とはとても信じられない代物ばかりである。「習作」という見方もあるが果たしてどうなのだろうか。また、つい先達て紀伊国屋書店で見つけた「佐伯祐三のパリ」の著者朝日晃の続編「そして佐伯祐三のパリ」を読み終えたところである。友人であった作家の芹澤光治良や彫刻家の福澤一郎との交友関係や彼等の作品から祐三のパリ時代を解きほぐしその素顔に迫ろうとするもので、前作に続いてよくマアここまで調べられるものと感心するばかりである。ちなみに落合莞爾によれば朝日晃は真贋騒動では「贋物説の元凶」ということになっている。
その本の中に当時のパリで親しく付き合っていた画家山田新一の著書「素顔の佐伯祐三」(中央公論美術出版社)が紹介されており、さっそくインターネットで発注したが、残念ながら廃刊となっており在庫もなく手にすることが出来なかった。佐伯祐三の死に濃密に係っていただけにその内容が注目され、こうなると神田の古本屋を訪ね歩くことになるのか。
かくして私の「佐伯祐三狂い」も益々深みにはまってきた感じである。