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109  “桝席のダリヤ会” 5年ぶりの大相撲観戦
令和元年7月11日


今回も末松さんのお骨折りで5日目 “ナマ土俵見参”の運びとなった。
生憎の雨模様であったが大相撲観戦には障りなし、今回も幕下の取組みが始まる頃(1時半)には桝席に座っていた。ちょうど末松さんも着いたところであった。
広い館内を見渡すと、まだ1〜2割程度の入りだがこの時間帯にやってくるのは純粋な相撲好きか暇つぶしのどちらかに違いない。 座った桝席は向正面7列目のほぼ中央で土俵への距離・角度とも申し分ない。ただ桝席の広さは5年前と全く変わらず、4人の大の男にはやはりきつい。
いつからかドルフィンズ・アリーナと名前を変えた愛知県体育館も老朽化し、隣接する名城公園内に新体育館建設の計画が進んでいると聞く。桝席の設備も一新される筈で大幅な拡張を期待したい。尤もこの年齢では次回観戦など覚束ない話だが……。(写真は2時半“桝席のダリヤ会”)

さて、土俵に注目。
幕下での最大のお目当て栃清龍 (23才岐阜市出身・東29枚目)は残念ながら今日はお休み、連勝で迎える第3戦は明日以降にお預けと知り肩を落とす。

栃清龍
平成26年春場所に初土俵を踏み順調に力をつけて20才で幕下に昇進、四股名も改めて以来4年(16場所)が経過しているが、西15枚目を最高位になかなか関取への足掛かりが掴めず昇ったり降ったりのエレベーター状態。そろそろ壁を破らないと『万年付き人暮らし』の相撲人生がちらつき始めている。待望久しい岐阜県出身の関取誕生を夢見ながら一段のギア・チェンジを期待し応援し続けている力士である。
日記こもれび97 『栃清龍 勇気』参照

相変わらずの相撲人気で刻々と増え続ける観客に応えるような激しい相撲が続き次第に魅き込まれていく。
目前に近づいた関取の夢に全霊を賭けて挑む若手力士たちに、思いもかけぬ怪我に泣き懸命に復活を目指すかつての花形力士たちが絡んで描き出す土俵絵巻はそれだけで感動を呼ぶ。敗れて悔しさを押し殺しながら花道を去る力士の無表情がいかにも痛々しい。
さらに取組みが進んで優勝すれば関取昇進が約束される15枚目以上の力士の対戦になると俄然熱を帯びる。中でも十両力士の土俵入り後の残り5番は一戦一戦が関取の座に直結するだけに凄みがあるのだ。
関取と幕下力士では天国と地獄に例えられるほどの格差がある。華やかな大銀杏に化粧まわしで土俵入りする十両力士を横目に、チョンマゲに汚れた鼠色のまわしで花道を譲る幕下力士……観客の目に触れられる部分だけでも非情で歴然としている。一方見下ろす側の十両力士も負けが重なれば明日は我が身で必死の土俵になるのだ。
幕下残り5番に登場したもう一人の岐阜県出身力士田邊(大垣市出身24歳・西15枚目)は元三役力士豊響と対戦したが押しの圧力に屈し3敗目、同期・同窓(金沢学院大)のライバルであった炎鵬は遥か彼方の雲の上となってしまっている。
以前は殆ど関心がなかった幕下相撲にこれ程魅了されるようになったのはやはり郷土力士の存在と久しく途絶えている関取への期待が目を開かせたものだ。
そうこうしているうちにメンバー4人が揃い、ビールとつまみを買ってきてさっそく膝つき合わせての『相撲酒』、無論ダリヤ会の本番は定宿『大紀』だがいわばその口慣らしといったところか。

十両の取組みに入ると登場する力士の様子がガラリと変貌する。色とりどりの締込みにピンと跳ね上がった下がりと大銀杏の男ぶり。さらには一段と鮮やかな衣装の行司の登場で土俵は華やかな舞台と変わった。単なる格闘の場ではない日本古来の様式美に、テレビ桟敷では満たされぬ臨場感に酔うのである。
2時40分を過ぎ観客席はほぼ埋まる。
初々しい新十両4力士の溌溂とした土俵に始まり次第に熱気を帯びていく。淡々と仕切りを重ねるうちに漲ってくる闘志、呼応して贔屓力士の名を呼ぶ観客の声、制限時間一杯の立ち合いに場内は息をつめ静まり返ると次の瞬間、勝負の行方を見守る大歓声は時に雷鳴のように耳を覆う。土俵と観客が一体となる瞬間だが、場内の音を絞っているテレビ中継では想像できない音量である。
つられて思わず大声を出している自分に気付くのだが、これがナマ観戦の魅力というものであろう。もちろんそんな見応えのある相撲ばかりではない。立ち合いの変化であっさりと勝負がついてしまい落胆の溜息やブーイングに代わることもある。

幕内力士の土俵入りは東西総勢38人で十両力士の28人より一段と華やかである。各力士が場内アナウンスに促されて土俵に上がる時に浴びせられる歓声は人気のバロメーター、なかでも小兵、美男、美形、所作、相撲っぷり、実力……全てを兼ね備えた炎鵬はまさに千両役者の趣で割れんばかりの歓声に包まれる。あの遠藤をも凌ぐ音量である。十両連続優勝で駆け上がってきた遅咲きのご当所力士志摩ノ海にも大きな声援が送られていた。
東西二人の横綱の土俵入りはやはり威厳が漂って美しい。
日本古来の伝統文化の粋が集約されている美しさではあるが、演じている力士がモンゴル人ばかりなのが少々不満、稀勢の里の姿がここにあれば……といまだに未練がましい。
向正面からは背中しか見られない恨みはあるものの、締められた純白の綱の形の違い(鶴竜の雲竜型、白鵬の不知火型)が鮮明に映って印象的であった。(写真は白鵬の土俵入り、露払いは炎鵬が華を添える。)

中入りになって『満員御礼』の垂れ幕が下がり(連続242日目)場内のボルテージは一段と上昇、4番目の取り組みが人気の条件を独り占めしたような炎鵬の登場で最高潮となる。相手は前捌きのうまいベテラン栃煌山であったが激戦の末に寄切りで破った。まさに『小能ク大ヲ制ス』相撲の醍醐味に酔う一番で場内は割れんばかりの大興奮。
その2番後には若手のホープ新入幕力士貴源治もうまさを発揮しを破って喝采を浴びる。
熱の入った攻防のある相撲が続き終盤に入って特に見応えがあったのは御嶽海北勝富士の相撲、同年のライバルとあって対戦はいつも激しい相撲になるが、今日も期待に違わぬ土俵となり短時間ながら力感溢れる攻防を見せて御嶽海の逆転勝ち。巨漢同士が激しくぶつかり合う迫力もナマ観戦ならではだ。
長野県の木曽路に生まれた御嶽海は名古屋場所最強のホスト力士で、掲げられた四股名入りのタオルが四方の観客席に溢れる光景には驚かされた。
連日大健闘の新三役阿炎、竜電それに先場所優勝の朝乃山らの活気溢れる相撲が続く一方、まだ片目も開かない大関栃ノ心と関脇玉鷲の不調が目立つ。 新旧交代の波が着実に進んでいる印象だが、若手力士の先頭に立つ大関貴景勝の姿がないのはいかにも淋しい。
新大関で臨んだ夏場所5日目に右膝靭帯損傷という大怪我を負い途中休場、カド番の今場所も全休止むなしの状態で大関陥落を覚悟しなければならない。せっかく掴んだ夢の大関の座をたった数日の土俵で手放さねばならなくなった無念が偲ばれるが、まだ若干22才の若さ、完全に治して出直しても十分過ぎる時間がある。無理は絶対にしないで貰いたい。

あれやこれやのドラマの末に最後の締めは両横綱、それぞれ対戦相手を問題にせず序盤5連勝で平幕の友風、照強とともに優勝争いのトップに立つ展開となった。
力をつけてきた多士済々の若手力士に立ちはだかる横綱・大関の上位陣……今場所の展開もさることながら世代交代期を迎え乱世到来となっている大相撲の行く末が非常に楽しみである。
結びの勝力士に代わる弓取り式、わずかな時間だが観客の半分程は立ち上がって出口に急ぐ。鮮やかな弓捌きと最後の舞台を堪能する余裕が感じられないのは残念だ。
土俵は単なる勝負を決める場ではない。

雨も小やみになった館外に出る。
地下鉄の駅へと延びる行列に身を委ねながら、土俵と観客が一体となった興奮はやはりテレビ画面では味わえぬ格別のものと思いを馳せる。
立ち合い時の一瞬の静寂と直後の激しく肉体のぶつかる衝撃音、誘われるように湧き上がる大歓声、時に驚きと落胆、悲鳴さえも加わる。まるで力士の気持ちを代弁するかのような感情の動きが館内を支配する。
粛々と土俵に上がり一戦の後は淡々と土俵を去っていく。どこか哀感を帯びた武士道の潔さを漂わせて相撲の奥深さを垣間見る気分にもなるのである。

雨模様の夕暮れの街角に『大紀』と大書された看板が目立ついつもの居酒屋の暖簾をくぐる。時計は7時を回っていた。
大相撲の醍醐味を存分に味わった後の酒はまた格別、肴となった今日の話題の中心は相撲ではなく意外にも中日ドラゴンズで、その低迷ぶりと監督の采配に……プロ野球も色々と複雑な時期を迎えているが、桝席に代わるネット裏のダリヤ会は相変わらず厳しい。
ともあれ今日の相撲見物の世話をしてくれた末松さんに心より感謝したい。

【追記:名古屋場所の結果】
幕内最高優勝は横綱鶴竜14勝1敗、炎鵬は9勝6敗で技能賞獲得。遠藤は10勝を挙げ来場所の三役復帰が濃厚となる。 幕下の郷土力士栃清龍は4勝3敗、田邊は3勝4敗に終わった。(『満員御礼』の垂れ幕は連続252日で継続中、名古屋場所の面目を保つ。)

(了)