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103  根尾昂・第四章(“ナマネオ”観戦記)
平成30年6月9日



『春のセンバツ』連覇を達成した大阪桐蔭、その後も春季近畿地区大会大阪府予選を勝ち抜き近畿大会決勝では選抜決勝の好敵手智弁和歌山を3:1で破って優勝、夏の甲子園へ隙のないチーム作りが進んでいる。
昨年夏の甲子園3回戦敗退後の新チーム発足以来、公式戦は実に27勝1敗(昨秋の明治神宮大会準決勝創成館戦敗退)でまさに絶好調。中でも我らが根尾昂はチームの大黒柱として投・攻・守に獅子奮迅の活躍、ますます存在感を増し球界雀の評価もうなぎのぼりだ。
その根尾昂が愛知にやって来ると熱烈な根尾ファンである大阪に住む同窓の友人から知らせが入った。愛知県高校野球連盟(以下高野連)の招待試合に大阪桐蔭が招かれるという。つまり生の根尾“ナマネオ”が見られるという絶好のチャンスが来たという訳である。
県内の野球レベル向上と人気活性化を図る目的で高野連が3年前から始めている企画で、実力名声兼備の実力校として今年は大阪桐蔭を招いたというわけである。
2015年履正社(大坂)2016年健大高崎(群馬)2017年早稲田実業(東京)と続く系譜で昨年はホームランの清宮で沸いたが今年はその主役は“二刀流の根尾”なのである。
高野連によれば根尾が1年生の時から今日を予想し手を打っていたとのこと。
2日間4試合の日程で今日(6月9日)がその初日、場所は刈谷球場で春の東海地区大会の覇者東邦と桜ヶ丘が相手を務める。明日は岡崎市民球場に場所を移し中京大中京と愛産大三河が対戦する。またのないチャンスであり大阪での動静を伝えてくれている友人の恩義に報いるためにも是非観戦して“ナマネオ・ルポ”を送りたいものと勇み立つ。

今日は晴れの真夏日、明日は雨との予報でチャンスは今日とばかり早朝6時15分に家を出た。
地区大会優勝校同士の対戦となった東邦戦の試合開始は9時半だが、熱戦が期待されお目当ての選手たちの登場とあって相当な混雑が予想されるので『早めの行動』を期した。犬山、知立と乗り継ぎ最寄りの刈谷市駅に着いたのが7時40分、約1キロを歩いて球場に着くとやはり大変な人出でスタンドの方からは観衆のざわめきが聞こえる。
ファンへの恩返しと入場は無料で高野連の粋な計らいに感謝しつつスタンドに上がって見渡すと、1万人は収容できそうな内野席は既に8割方埋まっていた。後で新聞で知ったのだが、前日午後3時から並んだファンを含め早朝から約300人が行列、予定を早めて6時半に開門したとのことで予想をはるかに上回る人気である。

グランドでは両校の選手が大声を出してウォームアップを行っていた。内野席は背もたれのないベンチで三塁側の大阪桐蔭ベンチのちょうど上辺りに空席をみつけて陣取る。
練習中の選手の中に背番号6の根尾を追う。副主将らしく他の選手に目配りしながらのきびきびした動作に、今日はどんな活躍を見せてくれるのだろうかと期待が膨らむ。
ジリジリと照りつける陽射しには閉口するが時折吹き渡る朝の涼風が救いで、入場口で配られた選手名簿に目をやりながら待つこと約1時間半、先発メンバーが発表される。『1番レフト宮崎、2番ライト青地、3番ショート中川、4番センター藤原・・・』昨年来さんざん見てきたオーダーで根尾が投げるときは『5番ピッチャー根尾』と続く筈、果たしてその通り先発投手は根尾であった。
満員のスタンドが拍手とどよめきに包まれた。
予定されている4試合のうちどの試合に投げるのか・・・西谷監督が東海の覇者に対し敬意を表すとしたら東邦戦だろうとの予想が的中した。監督はここぞという時に投げて必ず結果を出す根尾に全幅の信頼を寄せているのである。その他9番には2年生の宮本(二塁手)が起用されていて今秋以降の新チームの柱にするつもりだろうか。

試合前に両校の選手が一緒に記念撮影を行う招待試合ならではの交歓風景をあっていよいよ試合開始。立ち上がり制球難の根尾は4安打3点の“ご祝儀”、2回以降はマックス145キロの速球が決まりだし7回まで無安打に抑える。8、9回に長打で1点づつ失なったが125球で完投、失点5、被安打6、四死球3、奪三振6という内容。東邦の好打者林をして『始めて見る球の切れ』と云わしめた速球は傍目にも他の投手とは別次元の球威であった。
打線も格の違いを見せエース扇谷ら3投手に本塁打2本(石川、中川)を含む17安打を浴びせて12対5で圧勝した。5番に座った根尾はライト前への単打2本の4打数2安打1四球とそれなりに主軸の働きを見せてくれた。

大阪桐蔭 032 022 012=12
東   邦 300 000 011= 5

昔取った杵柄、スコア・ブック風にメモを取りながら、マウンドに向かう根尾、打席に立つ根尾、走者に出た時の根尾・・・・・その一挙手一投足を追うナマ観戦ならではの魅力を存分に味わう。リーダーとしての自覚が滲む同僚や相手校の選手への気遣い、礼儀正しさやきびきびした動作は試合が終わりベンチに消えるまで終始変わることはなかった。根っからの野球好きであることが体全体から伝わってくる。
18歳の少年にして培われているこの“ひととなり”・・・西谷監督が『どちらが大人か分からなくなる時がある』とこぼすも故あるかなと感銘を覚える。
大阪の友人には3通の実況メールを送った。返信メールによれば夜行バスで観戦に出掛ける予定だったが悪天候の予報で取止めた由、“追っかけ”も極まれりと脱帽するのみ・・・・・。

暑さには閉口しつつも“二刀流のナマネオ”は充分に堪能できたので引き上げることにする。
疲れた足を引きずりながら刈谷市駅にたどり着き、腹ペコの胃袋を癒さんと駅前の小さな食堂の暖簾をくぐる。ビールを飲みながら何気なくテレビに目をやると地元のケーブル・テレビが招待試合の中継映像を流していて、程なく第二試合の桜ヶ丘戦が始まるところであった。
1回裏いきなり大阪桐蔭打線が火を噴き3連打で先制後、4番根尾が一塁線を破る二塁打を放って2点目をたたき出し前試合完投の疲れも見せず躍動している。ひょっとするとまだテレビでもお目にかかっていない根尾のオーバーフェンスを見ることが出来るかもしれない。腹も満ち五体に力が漲って、このまま帰るのは根尾ファンの沽券に関わると再び球場に逆戻りと云う仕儀に・・・。食堂のテレビ中継が無かったらそんな気は起きなかったに違いない。

第一試合の時より観衆は減っているようだがスタンドはほぼ満員で外野の芝生席は木陰もあって少し増えている感じだ。回は3回に進み第二打席に立った根尾はレフトフライに倒れたところでスコアは2対0のまま。桜ヶ丘のエース濱田の軟投にてこずる間に4回、6回とエース柿木が失点し同点に追いつかれる。
そして迎えた7回一死一塁で放った根尾の打球は左中間へ伸びる。(写真)“スワッ通算24号か”と身を乗り出したがもう一伸び足らずフェンス直撃の二塁打で2点勝ち越しのお膳立て。結局試合はそのまま4対2で大阪桐蔭が勝ち第一日目は連勝という結果に終わった。

桜 ヶ 丘 000 101 000=2
大阪桐蔭 200 000 20A=4

根尾の打撃成績は1死球をはさんで3打数2安打1打点で申し分なし、評判の守備でも見せ場を作る。9回の先頭打者が放った痛烈な三遊間の打球を横っ飛びに捕球するや矢のような送球、一瞬の差でセーフとなったものの超人的な身体能力にスタンドがどよめいた。その後のピンチも頭上を襲ったライナーを軽快に裁いて飛び出したランナーを併殺に仕留める。胸のすく見事なプレイであった。

かくして“真夏日のナマネオ観戦”は終了。第一試合はピッチングとバッティング、第二試合はバッティングとフィールディングと根尾らしさ満載の野球を余すところなく瞼にやき付けた。
予定外の二試合観戦でもはや限界、選手用のバスに群がる追っかけファンを横目に二度目の足を駅に向けたものである。シミの浮かんだ我が二の腕は真赤に日焼けしていた。

なお第二日目の成績は4対12(中京大中京)、5対6(愛産大三河)と連敗。大阪桐蔭といえどもさすがに二日間4試合を支える投手陣を持つことは難しいようだ。根尾はショートでフル出場、第一試合5番で3打数無安打2四球、第二試合は4番に座って4打数2安打、フェンス越えのご披露は無かった。
招待試合4試合の打撃成績は14打数 6安打 1打点 4四死球 打率 .429
『ダブヘッダーの二日目というのは言い訳にならない。力不足、体力不足です。』とは試合後の根尾副主将の弁。
もうすぐ『夏の甲子園』予選が始まる。

(了)