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102  根尾 昂  第三章 (春・連覇!)
平成30年3月23日〜4月4日



昨年8月19日夏の甲子園三回戦、一塁手のベース踏み損ないで逆転を喫した大阪桐蔭、春のセンバツを制し優勝候補最右翼といわれた強豪校があえなく姿を消した。その骨格を担っていた二年生の選手たちは、悔し涙に暮れる間もなく翌日直ちに新チームを結成し、“踏み外しの超本人”中川を新主将に選んで『春の連覇』を合言葉に練習グラウンドに立った。
中でも?飛騨が生んだ怪物“根尾昂(あきら)は勝負強いバッティングで四番に座り、投げてはチームの切り札として抜群の存在感を発揮する。甲子園後の日本代表として活躍した藤原を始め、中川、山田、柿木等と切磋琢磨の日々が再び始まったのである。

程なく秋の府大会(9/18〜10/14)に臨み順当に制覇、四番根尾は決勝戦(履正社)で今大会3本目のホームランを放つ。さらに近畿地区大会(11/21〜11/5)でもひと際注目を浴びた。破竹の勢いで勝ち進み準決勝の近江(滋賀)戦では先発して最速148キロの速球を駆使し16三振を奪って5−0で完封、翌日の決勝では智弁和歌山と対戦し値千金の130m弾(通算20号)を放って1-0で勝ち秋の神宮野球大会と翌春のセンバツの出場を決めた。まさに獅子奮迅、押しも押されもしない大黒柱の活躍であった。
大阪に住む同郷・同窓の友人も熱烈な根尾ファンで球場に駆け付けメールで戦況を知らせてくれるやら、地元スポーツ紙のコピーを送ってくれるやら・・・・・やはり地元紙の詳報には叶わない。『持つべきは友』誠に有難い。(写真は専門誌『ホームラン』グラビアから)

秋の神宮大会(11/10〜14)は準決勝で残念ながら長崎の創成館に4−7で敗れる。緩急差の技巧派投手を打ちあぐみ守備に綻びが出てのまさかの敗戦、根尾は投打にいいところなく新チーム結成後初黒星を喫した。慢心を戒める格好の課題が見えさらに鍛錬を重ねてきたのである。
『最強!最強!』と騒がれるのを危惧した西谷監督は『まだたいして強くない、現時点で云うなら歴代で10番目くらいのチームや』と引き締めに余念がない。

かくして迎えた第90回記念選抜高校野球大会、根尾昂らミレニアム(2000年)生まれの新三年生が躍動する大阪桐蔭は今年の甲子園でも優勝候補の最右翼で史上3校目の『春の連覇』が懸かる。
本屋の棚に並ぶスポーツ誌には根尾や藤原らがスーパースター扱いで表紙やグラビアを飾っている。秋のドラフト一位候補としても文句なしの扱いで、早くも『○○球団が触手・・・』などと球界雀たちが騒がしい。(写真は専門誌『ホームラン』の表紙)
参考までに新チーム結成後の根尾の記録をみると下記の如く抜群である。
【打者】 24試合(公式戦13試合) 86打数 35安打 打率 .407 (本塁打9 二塁打10 四死球19)
【投手】 5試合 24回 自責点6 防御率2.25
【根尾昂評】
○ スキーで鍛えた身体能力抜群の“スーパー二刀流”
○ チャンスに強い勝負度胸
○ あえて弱点を挙げればメンタル面で完璧を求めすぎて考え込むことがある。(求道者の趣)
○ 『野手としては優等生、投手をやると我が強くなる、二面性のある面白い子』
 『話しているとどっちが大人か子供か分からなくなるほどしっかりしている』とは西谷監督の根尾昂評
○ 練習量は人一倍、因みに座右の銘は『継続は力なり』とのこと。(飛騨人のDNAか、我が意を得たり。)

【3月23日(金)】 開会式、皆で踏みしめる三度目の甲子園
冷たく寒い冬日が続いていたが、開幕を待っていたかのように青空が拡がり晴れの舞台は整った。昨年の優勝校大阪桐蔭を先頭に全国3989校から選抜された36校の選手が入場。優勝旗を持つ中川主将を先頭に根尾副主将が優勝杯を抱えて続く。 優勝旗・杯返還の場面では精悍で晴れやかな表情が大写しに。皆が揃って三度踏みしめる甲子園の土にその喜びを噛みしめているようであった。

【3月26日(月)】 緒戦(二回戦)は21世紀枠『伊万里』
大会第4日、いよいよ真打大阪桐蔭の出番である。
列島は桜の季節今日も暖かい陽射しに恵まれ絶好の野球日和、甲子園は満員のファンで埋まる。 対戦相手は21世紀枠の伊万里(佐賀)である。県立校で屈指の進学校で野球人口の底辺拡大のためとボランティアで少年野球の審判を買って出るなどの活動が認められての出場である。秋の佐賀県大会準優勝の実績はあるが不運にも相手が悪い。危惧した通りのワンサイド・ゲームになり序盤で12−0の大差がつく。5回以降試合も落ち着き2点づつ取り合う展開になったが、結局14−2で試合終了。
甲子園に駈けつけたファンのお目当ては地元の強豪大阪桐蔭の筈であったが、試合が進むにつれて大差の展開となるなか判官贔屓か風は伊万里側になびき始め、特に8,9回の反撃には大変な声援が起きるという甲子園ならではの空気を味わう。(写真は第一打席でいきなり三塁打)

伊万里   000 000 011= 2
大阪桐蔭 530 401 10A=14

五番ショートで先発した根尾は5打数2安打3打点の活躍でまずは順調なスタートを切った。特に初回に放った左中間三塁打の打球の速さと俊足は豊かな素質の一端を披露。3打席目以降は大振りが目立ち凡退を重ねる。得てして調子を崩す端緒になりかねず心して欲しい。

【3月31日(土)】 三回戦は初出場の明秀日立(茨城) さながら『根尾劇場』
好天続きで順調に日程が進み大会第9日目、ベスト8を懸け春夏を通して初出場の明秀日立(茨城)と対戦。好投手細川を擁し近年めきめき力をつけて、昨秋は関東地区準優勝の実力校である。
西谷監督はこの試合を根尾に託した。
甲子園初先発の根尾は最速147キロの速球と曲がり鋭いスライダーを武器に力投、与四球9と制球に苦しみながら4安打1失点11奪三振に抑えて153球の完投勝ち。荒れ球が的を絞りづらくしているようであった。
打っても5番に座って5回貴重な追加点を奪うタイムリーを放つなど2打数1安打1打点の活躍は、さながら“根尾劇場“の趣であったが欲を云えば完封勝利といきたかった。(写真は力投する根尾)

明秀日立 000 000 001=1
大阪桐蔭 001 010 12A=5

試合後のお立ち台では『1失点完投は上出来だが、ランナーが出ると気になって制球が乱れたのは反省。タイムリーはファースト・ストライクを積極的に振りに行った結果でよかった。』と根尾。西谷監督は『根尾の先発は彼のスライダーが相手打線に有効と思ったから、四球が多かったのは慎重にいったせいだろう。中軸が打つとチームは乗ってくる。』と太鼓腹を揺らす。

【4月1日(日)】 準々決勝 相手は大谷翔平の母校・花巻東
いよいよ大会も終盤に入り日程は3日を残すのみ、ベスト4への関門は菊池雄星や大谷翔平を輩出した名門『花巻東』。接戦が予想されたが初回の攻防が勝負の分かれ目となり意外な大差がつく展開となった。
先発投手は柿木で立ち上がりにいきなり3連打を浴びてピンチを招いたが拙攻に助けられて無得点で切り抜けると、その裏大阪桐蔭は中軸の連打に敵失もあって一挙4点を先制した。2回以降も計17安打の猛攻、柿木―横川―森本の完封リレーと鉄壁の守りを見せて19−0で圧勝した。一度狂った歯車は修復が難しく『初回が全て・・・』と花巻東の監督がうつむく。
大差がついても緩むことがない試合運びは相手チームへの礼儀として範とすべきものであった。(写真は勝負を分けた初回二塁打を放つ)

花巻東   000 000 000= 0
大阪桐蔭 450 230 23A=19

根尾は5番ショートでフル出場、6回打席が回り3打数2安打1犠飛2四球3打点の活躍であった。守っても内野の要として無失策、最終回には地を這う打球を横っ飛びに掴みそのまま足でベースに触れて封殺する離れ業を披露、並外れた体幹の強さを見せつけていた。

【4月3日(火)】 準決勝 あわやの大苦戦、根尾奮投!
第一試合の東海大相模(神奈川)×智弁和歌山は延長にもつれ込む打撃戦を制した智弁和歌山が12−10で決勝への切符を掴む。
続く第二試合、大阪桐蔭の相手は日大三や星稜を撃破してきた三重で柿木と定本が先発した。総合力で勝る大阪桐蔭が有利と予想されたが、一昨日あれほど暴れまわった打線が定本の緩急自在の投球に沈黙。一方柿木に何時ものキレが無く3回2点を先制され、5回からマウンドを根尾に譲った。
根尾は今日も最速147キロの速球に鋭いスライダーを駆使して追加点を許さず、見違えるように安定した投球で味方の反撃を待つ。
6回山田のソロで1点を返すがなかなか定本を打ち崩せずリードを許したまま最終回の土壇場へ、先頭の根尾が四球で出塁すると下位打線が奮起し小泉のタイムリーで何とか追いつく。そしてあわや『初のタイブレイク』(今大会から採用)かと思われた延長12回、この試合無安打の四番藤原が左中間を破り一塁走者が還って劇的なサヨナラ勝ちとなった。さすがと思わせる一撃だが、粘り強い投球で追加点を許さなかった根尾の力投がもたらしたもう一枚の切符でもあった。(写真は9回同点のホームを踏む根尾)

三  重  002 000 000 000 = 2
大阪桐蔭 000 001 001 001A =3

5番ショート・根尾のバッティングは5打席4打数2安打1四球と相変わらず絶好調だが、何と云っても今日の根尾は投手としての活躍に尽きる。5回から登板して8回(99球)を投げ切り被安打5、与四球0、奪三振9で完封して今大会2勝目を記録した。特に前回(明秀日立戦)の9与四球の反省から制球に気を配り、快調なテンポで投げて攻撃へのリズムを作り逆転勝ちを呼び込んだ。お立ち台は藤原に譲ったが間違いなくこの試合の立役者は根尾であった。
守備でも9回無死一塁の場面での素早いバント処理で併殺にとったプレーは解説者も絶賛する身体能力、根尾の真骨頂といったところでますます乗ってきている。

【4月4日(水)】 決勝 史上3校目の『春連覇』達成 根尾完投勝利
大会最終日、延45万人が詰めかけたセンバツ甲子園もいよいよフィナーレを迎える。
舞台が整い対峙したのは春連覇を期す大阪桐蔭と昨年の公式戦で三度戦い一度も勝てず今度こそとリベンジを誓う強豪智弁和歌山である。
先発投手は大阪桐蔭が昨日の準決勝で99球を投げた根尾の連投、智弁和歌山は昨日180球の激投を演じたエース平山が今日はリリーフに廻り池田が先発。双方とも継投時期が鍵を握る展開が予想された。
蓋をあけると根尾は流石に昨日ほどの威力はなかったが要所を締め、池田は変化球で的を絞らせず序盤は0−0、4回に双方の内野にエラーが出て2点づつを取り合う。 そして同点のまま終盤へ、どちらが先に追加点を挙げるかに懸かってきたがやはり地力の差が出て池田が持ち堪えられず大阪桐蔭に決定的な3点が入った。
根尾は尻上がりに調子を上げ強打の3番林、4番文元を無安打に抑え込んで最後まで投げ切り、失点をエラー絡みの2点に抑えて今大会3勝目。 昨年の8月20日新チーム発足時に誓った念願の大会連覇を引き寄せる立役者となった。36年ぶりの偉業は第一神港商(1930)、PL学園(1982)に次ぐ3校目で、その優勝マウンドには根尾が立ち『史上初の連続優勝投手の栄誉』を手にしたのだ。まさに文句なしのMVPである。

智弁和歌山 000 200 000=2
大阪桐蔭   000 200 12A=5

(根尾の投手としての成績)被安打6 与死四球4 奪三振6 自責点2 投球数135
(根尾の打者としての成績)4打席 4打数 2安打 1打点

大舞台にも拘わらずマウンドでも打席でも全く動ずることなく冷静沈着そのもので、甲子園5試合を通して精神的にも肉体的にも高校生の域を越えまさにチームの大黒柱として存在感を存分に発揮した。『努力は絶対にウソをつかない』中川主将とともにインタビューを受ける根尾の表情は達成感に満ち晴々としていた。
欲を云えば近畿大会で見せた130m弾を見たかったが、チーム・バッティングに徹する根尾の矜持なのであろう。それは夏の大会でのお楽しみにとっておこうと思う。
連覇決定の瞬間にはこんなエピソードが・・・。
一塁ゴロのベース・カバーに駆け込んだ時帽子が飛び、拾ってくれた智弁和歌山のベースコーチの許に歩み寄り『ありがとう』『ナイスピッチ』と言葉をかわした。そのためにマウンドでの歓喜の輪に遅れてしまったという。

【三度目の甲子園・成長著しい飛騨の怪物】
大会前から超高校級と注目された根尾は、三度踏んだ甲子園の檜舞台でさらに逞しく成長し投打ともにその力を遺憾なく発揮した。日程に狂いなく今大会5試合の根尾の戦いぶりをつぶさに辿ることが出来たのは誠に幸運であった。
放った安打9本のうち7本が第一、第二打席であることが示すように、いち早く状況を見ぬく対応能力とスタミナ抜群の身体能力に改めて並々ならぬものを感じたのである。加えてピンチにも動じない精神的な強さに副主将としての信頼感もまた申し分が無い。

(全5試合の通算成績)
投手成績 3試合 26回 投球数 392 被安打 14 与四球 13 奪三振 26 失点 3  防御率 1.04
打者成績 打席数 24 打数 18 安打 9 (二塁打、三塁打各1) 四球 5 三振 0 犠打 1 失策  打点 8 
       打率 0.500

根尾の活躍には出生地飛騨市も大変な盛り上がりで市役所にはパブリック・ビューイングが設置され、バス4台を仕立てて150人が甲子園に駈けつけ熱い声援を送ったとのこと。
新聞の地方版には『飛騨の二刀流 再び舞った』(中日)と大きな見出し、辛口の西谷監督も『投手だけでなく打撃や守備も成長し、何より精神的支柱となってチームを引っ張ってくれた。』と手放しの褒めよう。
連覇達成の美酒に酔う暇もなく夏の甲子園を目指し鍛錬の日々が始まる。20名の新一年生が入部したとのことでまずは府大会突破が至上命題で、寮に戻った根尾の素振りが始まっているに違いない。最強の大阪桐蔭と我が飛騨の怪物・根尾昂がどこまで成長するのか楽しみに夏を待ちたい。

(了)