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100  根尾 昂・第二章
平成29年8月8日〜19日



春の選抜から5か月、“夏の甲子園”第99回全国高校野球選手権大会は雨で一日順延し8月8日開幕した。
晴れの甲子園を目指して各都道府県大会での熾烈な戦いを勝ち抜いた代表49校が開会式に臨んだ。公式戦107ホームランの怪物清宮を擁する早稲田実業が西東京大会決勝で敗退、残念ながら甲子園でその姿を見ることは叶わなかったが、西の強豪大阪桐蔭は期待通り8試合を勝ち抜き“選抜優勝校”の看板を背負って甲子園に駒を進め堂々の行進、その中には2年生ながら春の選抜優勝に貢献し“飛騨の怪物”と注目された『根尾 昂(あきら)』が健在であった。

根尾のプロフィールや選抜での活躍は 『日記こもれび』(保存版No99)に掲載済みだが、その後の成長ぶりを是非見たいものと府大会突破を祈りながら新聞の試合結果を確認する毎日であった。(大阪府大会での根尾の成績は、打率 .385、投手成績 2試合 5回 失点2 決勝戦10-8大冠 6番右翼で先発 3打数1安打1打点)
開幕が迫る8月4日、新聞にベンチ入りメンバーが紹介された。
勿論根尾の名前があったが背番号10、残念ながら控の番号であった。後で知ったが春の選抜後腰痛の影響で大阪府大会は調子を崩していたという。

(8月11日 大会第4日目) 緒戦、順当な出足
昨年から制定された祝日“山の日”、六甲の山並みに夏空が広がる甲子園は優勝候補と目される6校が登場するとあって朝から超満員のファンで膨れあがった。
第4試合に登場した大阪桐蔭の相手は米子松陰(島根)で実力差は歴然、じりじりと得点を重ね8−1で大勝した。
根尾は6番右翼で先発、凡打に終った打席も芯に捉える4打数2安打2打点の活躍であった。春選抜で大活躍の他の2年生(藤原、中川、山田)も夫々変わらぬポジションに名を連ねチームの骨格を担っている。

米子松陰 000 000 100 = 1
大阪桐蔭110 121 20A = 8

【根尾の全打席】
@ 2回無死一塁 左中間に二塁打 打点1(写真)
A 4回一死走者なし いい当たりの二塁正面のゴロ
B 5回一死一,二塁 いい当たりの二塁正面のゴロ
C 7回一死二塁 左翼越えの二塁打 打点1

テレビ解説者は春の選抜では粗さが目に付いたがバッティングの精度は確実に高まっていると評価していた。
守備では7回右前に飛んだ飛球を突っ込んで後逸して三塁打に、さらに返球が乱れて唯一の失点を記録、6点リードの局面では無理をする必要が無く若気の至りか。
【試合後の根尾の談話】(中日スポーツ)
『目指していた打撃が出来て良かった。春の時と雰囲気や相手バッターの目付きも違ったけどいつも通り出来た。』

(8月17日 大会第9日目) 4番根尾先制打で智弁和歌山に辛勝
大阪桐蔭二回戦の相手は智弁和歌山、一回戦(興南)で6点のビハインドをひっくり返した強力打線を誇る強豪校で激戦が予想された。
発表された先発オーダーを見て驚いた。根尾が4番に座っているのである。
公式戦では昨秋の近畿大会以来の4番と聞くが、一回戦での勝負強いバッティングが評価されたのだろう。オーダーの真ん中に根尾の名があるスコアボード(写真)に西谷監督の信頼の篤さが感じられる。
2年生4人組は1(藤原)3(中川)4(根尾)6(山田)と主軸を任される布陣。
試合は1回裏二死三塁、いきなり4番根尾の力量を問われる場面が訪れたが、期待に違わずフルスイングの打球は中前に落ち先制した。藤原―根尾の2年生コンビでもぎ取った1点が意外に重い得点となった。(下の写真)

大阪桐蔭徳山、智弁和歌山黒原両エースの投げ合いでなかなか点が取れず4回同点に追いつかれて後も守り合い凌ぎ合いの重苦しい展開となる。しかも大阪桐蔭が押され気味でピンチの連続・・・・・それでも好守で何とか持ちこたえる。特に外野陣(山本、藤原、根尾)の俊足強肩が未然に失点を防いだ。そして7回裏球運は大阪桐蔭に、ワイルドピッチによる決勝点が転がり込む。最終回も一死一,二塁の大ピンチに立たされたがダブルプレイでゲーム・セット、大接戦をものにしたのである。

智弁和歌山 000 100 000 = 1
大阪桐蔭  100 000 100 = 2

  【根尾の全打席】
@ 初回二死三塁 中前先制適時打 打点1
A 3回一死一、二塁 遊飛 初球第1打席と同じ球
B 6回先頭 一塁ゴロ 正面に飛ぶ強い当たり
C 8回先頭 フルカウントから見逃しの三振
(第一打席が全てで4打数1安打1打点の成績)

【翌日のスポーツ紙の報道】
※『根尾4番で先制打』(日刊スポーツ)
※『大阪桐蔭根尾 食らいついた』
 『甲子園の4番初打席で中前適時打』(中日スポーツ)
(根尾選手談話):内に食い込んできたボールだったけど何とか食らいついた。苦しい試合になることは分かっていたので。
(西谷監督談話):徐々に調子を戻してきたので4番に決めた。

(8月19日 大会第11日目) 最終回二死無走者から逆転負け
ベスト8進出をかけての三回戦最後の試合に大阪桐蔭が登場、相手は仙台育英で甲子園球場は42,000人の大観衆で埋まる。 スコア・ボードに表示されたオーダーは今日も主軸は2年生でその中央(4番)に根尾の名前があった。
投手は2年生の柿木、今日最もいい状態なので起用したとは監督の話。相手はエース長谷川で中一日置いての登板である。
4時45分試合開始、両投手の伸びのあるストレートと切れのある変化球は強力打線に連打を許さず7回までゼロ行進、そして迎えた8回にようやく試合が動いた。
大阪桐蔭に山本、中川の長短打が出て待望の先取点が入る。その裏仙台育英も反撃したが左翼山本の好返球でホーム寸前タッチアウト、流れは完全に大阪桐蔭に傾く。
そして最終回、仙台育英の攻撃も二死無走者、最後まで崩れぬ柿木の力投に誰しも大阪桐蔭の勝利を疑わなかった・・・が、その直後信じがたいドラマが待っていた。
勝ち急いだか下位打線に安打・盗塁・四球で二死一、二塁のチャンスを許す。
しかし次打者を遊ゴロに打ち取りゲーム・セットと思われた次の瞬間、縦にあがる筈の塁審の手が水平に伸びている。送球を受けた一塁手中川がベースを踏み外し、踏み直す一瞬の間に打者走者の手がベースに届いたのである。(右写真)

何が起きたのか、マウンドに駆け寄ろうとしたナインは呆然と立ち尽くす。
二死満塁・・・・・心の整理がつかないまま次打者に対したのか、センターオーバーの逆転打を喫して勝利の歓喜は一気に暗転しサヨナラ負けとなってしまった。
一瞬の油断が勝敗を反転させるあまりに苛酷な現実に選手たちの涙が止まらない。
『勝負は下駄を履くまでは何が起きるかわからぬ。最後まで諦めてはならない』という教訓を証明する試合として甲子園の球史に刻まれることになるであろう。
どう受け入れていいのか、呆然と仙台育英の校歌を聞く選手たち・・・・・
遠くスコア・ボードを見つめる鋭い眼差しの根尾に涙は無かった。
4番に座りながら得点に絡めず苦戦の原因となった不甲斐なさを噛みしめているようにも映る。(写真中央)
放心状態の中川や柿木の姿を目で追いながら西谷監督は
『今日の負けは誰のせいでもない。今年のチームは主将を中心にまとまりがあり、2年生が3年生を尊敬するチーム。こういう代で勝ってこそ財産になると思っていた。勝たせてやりたかった。』と巨体を持て余しながら『大阪桐蔭の夏』を締めくくった。

大阪桐蔭 000 000 010 = 1
仙台育英 000 000 002 = 2

【根尾の全打席】
@ 初回二死一塁  中飛
A 4回無死二塁  二塁ゴロ(チーム・バッティングで進塁打)
B 6回二死無走者 中前打
C 8回二死無走者 二塁ゴロ
(4打数1安打 打点0) 7回から三塁へ回るが守備機会なし

史上初2度目の春夏連覇の夢は破れ“根尾 昂の2年生の夏”も不完全燃焼のまま終焉を迎えた。夏の甲子園3試合全イニング出場で12打数4安打、打率 .333、3打点 投手として登板する機会はなかった。
半年ぶりに見た根尾は確かに逞しさは増しているものの、強豪チームの主力打者としての風格や存在感にまだまだ足りないものを感じる。たとえ下級生であっても主力打者として果敢に難敵に立ち向かい先頭に立って苦境を打開する姿にチームメイトは信頼を寄せ奮い立つものである。
注目されるミレニアム世代(2000年生まれ、2年生)は田中(東海大菅生)浜田(明豊)谷口(神戸国際大付)林(智弁和歌山)中沢(青森山田)野村(花咲徳栄)ら多士済々、来年の100回記念大会の華になるに違いなく大阪桐蔭四人組にも更なる鍛錬・精進を期待したい。
甲子園は準々決勝、準決勝、決勝とフィナーレを迎えるが、『根尾 昂・第二章』は来春の第三章、来夏の第四章と続くことを念じつつ一旦頁を閉じることにする。

(了)