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96  春爛漫の飛騨路
平成28年4月14日



儚い願いが天に通じたか雨の予報が曇から晴に変わった。
空模様の足取りが早まって雨は朝方にやみお昼ごろには太陽が微笑みかけてくれる有難い一日となった。 ならば折角の好意に報いんと準備を急ぎ8時には愛車とともに家を飛び出して飛騨高山へと向かったのである。
今日は義兄と伊藤氏の絆をベースに静岡の山本氏と私が加わる恒例の春の宴「甚六会」の当日で、今回は遠来組の希望もあり「春の高山祭」を組み込んだものである。
まずは春を迎えた飛騨川の風景を新調したカメラに収めつつ国道41号線を走ることにした。我が家の周りのように盛り上がるような春の芽吹きは美濃白川の辺りまで、北上するにつれて冬の残り香が増していく。
岩が露出し清流がその間隙を縫う山国ならではの風景を捉えんと、飛水峡や中山七里など途中3回ほど車を停めてシャッターを切った。写真では見た目の美しさがなかなか捉えきれぬもどかしさを感じる。(写真は中山七里)
春を先導する桜は下呂・萩原近くまで既に葉桜となっているが、高山に近づくにつれ満開の樹影が目立ち始めた。例年より一週間程早くなった開花がちょうど高山祭に満開を迎える幸運をもたらしてくれたのである。
宮峠を越え一之宮町に入ったところで寄り道、あの「臥龍桜」も満開の筈で見逃す手はない。天気も回復しさぞや人出も多かろうと思ったが意外にも見物人は数人程で閑散としている。
しかしそこには紛うことなき満開の「臥龍桜」があった。
エドヒガンザクラで樹高20m、樹域は南北38mに及ぶまさに臥龍の名に恥じない。 樹齢1,100年と推定されているが斜面を這うように伸びた枝に満艦飾の花をつけた姿は壮観であった。(写真)

11時半を少し回った頃に高山に入った。
祭りの当日ときてはさぞ大混雑かと予想したが存外スムーズに走れる。運よくJR高山駅近くの駐車場に停めることができ大分時間を稼いだ。さっそくカメラとスケッチブックを持ってお祭り見物に出動した。
既に屋台12台の曳き揃えが終わり陣屋前広場には先導の役割を果たす神楽台と「からくり奉納」の三台(竜神台、石橋台、三番叟)が煌びやかな姿を見せ、その周りには観光客が群がっている。中橋の赤い欄干と川端に満開の桜、澄んだ青い空を背景に金箔と朱塗りの屋台が一段と光彩を放っていた。見る者を圧倒する飛騨伝統の匠の技に何やら誇らしい気分になる。
比較的人通りの少ない場所から屋台を捉える一角を見付けて得意の30分スケッチにとりかかる。無関心に通り過ぎる観光客から聞こえる言葉は殆ど外国語で却って集中できたのは幸いであった。
鉛筆素描を終えて再び雑踏に戻る。(現地スケッチをもとに描き直した水彩画を「一枚の絵」に掲載。)


小腹が減ったところで高山名物「みたらし団子」が頭に浮かんだ。さらに連想は鍛冶橋の袂にある小さな団子屋に至る。「二四三屋(ふじみや)」といい旅雑誌に載るほどの名物店で暫く待って三串程買い桜を眺めながらその場で食べた。「花も団子も・・・」だが、さっぱりした醤油味が特徴で炭火で焼く軽い焦げめがまた一味を加え郷愁を誘う。
女主人に聞くと終戦直後の“創業”で69年の長命を保っているとのこと、さもありなんと納得している。
祭り見物はこれまでとし国分寺通りにある漬物専門店に寄る。ここでしか売っていない「野沢菜の油炒め」を買うのだが、これが私の大好物で食欲増進の特効薬でもあり帰省の際は必ず立ち寄ることにしている。
あとは故郷への道すがら桜野公園(国府町)で一休み、墓参りなど所用を済ませて義兄とともに山家料理の割烹「蔦」へと赴く。
90才は越したと思われるが調理場には元気な女将の変わらぬ笑顔があった。
心尽くしの「祭り御膳」に舌鼓を打ち一年ぶりの再会に話は弾んだが、何と云っても今日のお目当ては「夜祭」見物である。
頃合を見測らって宴を切り上げ、見物客が溢れる街へと繰り出した。
集合時刻と場所を決め夫々好きなように楽しむことになり、私は新調したカメラで「夜祭」を撮影することに熱中した。大勢の人の間をかき分けながら先回りしての奮闘ぶりである。
提灯飾りに衣装を改めた屋台は安川通りから鍛冶橋を渡り本町筋へ左折して陣屋前へと巡る。飾られた多数の提灯が照らし出す極彩色の屋台はゆっくりした太鼓のリズムに哀調を帯びた笛の音が絡んでゆらりゆらりと進む・・・・・。
昼間の絢爛たる印象とは全く違い漆黒の闇を背景に幻想的な空気を漂わせている。諸所にライトアップされた桜があり、遠く500年程前に起源を持つと伝えられる高山祭を象徴する絵巻物のようである。
地元の人間でありながらまともに見る夜祭は始めてで実に美しく感動的であった。
もう少し眺めていたいと思いつつも諸氏の待つ集合場所へと急ぐ。

※ 10枚ばかりの写真集を「腕自慢PHOTO-STUDIO」に掲載しました。併せご笑覧賜り度・・・。

(了)