海外のメディアもそろって驚きと称賛の声を上げ、大震災に苦しむ日本の現状に希望と勇気を与える素晴らしい贈り物と、どの国も口を極めて彼女たちの勝利を称えた。
歓喜の冷めやらぬ間の翌19日監督や選手たちはフランクフルトを発ち成田に帰国した。6月中部国際空港を出発した時はサポーターの姿はなく報道陣も僅かに5人という淋しい風景であったが、世界一の凱旋帰国には何と400人のサポーターと空港始まって以来の260人に及ぶ大報道陣が詰めかけたのである。
その足で首相官邸を訪ね報告すると“辞めろコール”の渦中にある菅首相が「私も諦めずに頑張りたい」と呟いたとか。
その翌日はテレビ各局に分刻みの引っ張りだこ、金メダルを胸にかけた監督や選手達が大写しの画面に登場した。巷では一人数百万円の報奨金や名誉市民表彰、CM出演の話など俄か仕立ての騒ぎが繰り広げられる。
まさに現代の「シンデレラ物語」である。
だがその狂騒ぶりには少し不安を感じる。
一気に駆け上がった世界一の座は十分な土壌の上に築かれたものではない。初めて日本選手権大会が開催されたのは30年前、アマチュアの女子リーグが発足して22年になるが所属選手は現在231人(うちプロ契約6人)に過ぎず全体の競技人口も3万人に満たない。女子サッカー発祥の地ドイツはもとより、プロ・リーグがあり競技人口は3百万人という米国などとは比較にならない貧弱な環境である。
日本ではまだまだサッカーは男のスポーツという感覚で関心は薄くリーグ戦の観客は1試合平均1,000人にも達していないという。名前を知られている選手は沢ぐらいのもので他は今度のW杯で初めて知る名前ばかりだ。
そんな中で素質のある選手を探し出して海外移籍など英才教育を施し代表チームの骨格を作り上げているのが現状で、主力選手の多くは欧米のプロ・リーグ経験者で占められている。
沢主将が表彰台で「サッカーの神様って本当に居るんだな」と呟いたように、掴んだ世界一の座はいくつもの神がかり的な幸運が重なった結果で必ずしも実力で勝ち取った栄冠とは云えないものと謙虚に受け止めるべきであろう。
そして驕ることなく初心に返って9月から始まるロンドン五輪のアジア予選(中国)に臨まねばならない。パスと連携プレイで相手を崩す組織のサッカーは各国の標的にされ、浮かれていると足元を掬われかねない厳しい戦いが間近に迫っているのだ。
“なでしこの顔”沢も32歳、次の世代を引っ張る中心選手の育成も急務である。国民を熱狂させたこの歴史的快挙を契機とし各層のリーグ・トーナメントの充実や選手の待遇改善を図り競技人口の拡大など基盤作りを進める糸口にして欲しいものだ。
今度のドイツ大会は時差の関係で早起きを強制されたが、観戦を重ねるごとに女子サッカーのレベルの高さに驚かされ、“物足りないのでは”との先入観は見事に霧散した。サッカーは格闘技といわれるがそのスピードといいパワーといい戦術といい男子のそれに劣らぬ迫力を感じさせてくれたばかりか、女性らしい優しさや可愛らしさが随所に顔を出しすっかり魅了されてしまったのである。
因みに「なでしこジャパン」命名の由来は2004年アテネ五輪に出場する代表チームの認知度を高めようと公募、2700件の中から選ばれたもので日本女性の心の強さと直向きさがチームに宿るようにと名付けられたとある。
(参考)「なでしこジャパン」今大会の成績
| 月 日 | 対戦相手 | スコア | 得点者 |
グループ・リーグ(B) | 6/27 | ニュージーランド | ○2−1 | 永里、宮間 |
7/1 | メキシコ | ○4−0 | 沢3、大野 |
7/5 | イングランド | ●0−2 | |
※勝ち点6、グループ2位で準々決勝進出 |
準々決勝 | 7/9 | ドイツ | ○1−0 | 丸山 |
準決勝 | 7/13 | スウェーデン | ○3−1 | 川澄2、沢 |
決 勝 | 7/17 | 米国 | ○2−2 PK3−1 | 宮間、沢 |
(了)