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73  鳩吹山元旦登山

平成23年1月1日



年の初めは荒れ模様・・・・・・天気予報は曇時々雪と絶望的であったが、起き出してみると意外にも星空に三日月が冴え冴えと浮かんでいる。夜目にも白く辺りを浮き出させている雪も幸い道路に積もっている様子はなく“これなら行ける!「初日の出」も拝める!”と勇み立つ。時計は5時20分を指していた。
昨年は大雪で断念しているので今年は何とか登りたいと準備を整え待ち構えていたのである。自室で着替えをし抜き足差し足で玄関を出た。愛犬豆蔵を起こしてしまっては可哀想と優しい配慮である。そうは云っても敏感な豆蔵のことだから気配を感じているに違いないが・・・・・。
湿った道路の凍結を心配しながら車を走らせ5時40分登山口である眞禅寺に着く。しかし例年のような賑わいがない。車もほとんど見当たらず案内する人影もない。
いつもより30分ほど早いのでそのせいかとも思ってみたが、どうやら荒れ模様の天気予報に多くの人が出鼻を挫かれたようである。
一番近い登山者用駐車場に行くと10台前後の車があり懐中電灯を持った人影がちらほら・・・・・少し間があるのでしばらく車の中で待つことにした。

標高313メートルの鳩吹山は名古屋近郊の手ごろな山歩きの対象として近年中高年に人気のスポットになっている。眼下に木曽川の流れを挟む可児や美濃加茂の市街を一望でき遠く御岳を望むなかなかの名勝で、さらにいくつかの山を縦走して犬山の寂光院あたりまでトレッキングを楽しむことが出来る。「初日の出」を拝む山としても便利がよく近年とみに登山者が増え、山頂まで殆ど切れ目のないほどの行列が続くといった具合だ。登山道は幾つかあり木曽川沿いの崖道ではつい先頃遭難救出騒ぎがあったばかりで甘く見ると怪我をするシャイな山でもある。

6時20分登山靴に履き替え眞禅寺の境内に行くがやはり静かなものでいつもの「登山受付」も置かれていない。一息入れて階段のような急坂を登り始めた。空はようやく白み始め山は一面の雪化粧で墨絵のような幻想的な景観を見せているが、足元は暗く踏まれた雪で滑りやすい。懐中電灯で足元を照らし杖を使いながら慎重に歩を運ぶ。拍子抜けするほど登山者は少なく殆どマイペースで約20分登って山頂に到着した。
展望台の東屋にはすでに4,50人が陣取っており私も好位置を確保して次第に明るさを増す空を見つめながらひたすら「初日の出」を待つ。這い上がってくるような寒さだが娘が誕生祝にプレゼントしてくれたヒート・テックのズボン下を穿いているので随分助かっているし風がないのも誠に有難い。
今朝の眺望は雲が山際に低く張り付いていてその上に「初日の出」を仰ぐという趣向だが、刻々と雲が形を変えていて心なしか高さを増していくようである。日の出の辺りはちょうど雲の層が薄くなっていて早く顔を出してくれないものかとじりじりしながら待つ。茜色に染まる中空の雲は輝きを増してきているというのに、肝心の太陽がなかなか顔を見せず日の出の予定時刻7時10分はなす術もなく過ぎていく。雲の高さの分だけ遅れると思われるのだがそれも次第に積みあがり無粋に邪魔をして憚らない。
周囲から落胆の声が漏れ下山する人が増え始めた。
私も7時半頃まで粘ったがここらあたりが潮時と諦めて降りることにした。結局約50分山頂で頑張ったことになる。

降りてくる途中でようやく太陽の輪郭を見ることができたが、およそ「初日の出」の黄金色の輝きには程遠い。南に目を向けるとすっかり明るくなった尾張平野の先に名古屋の超高層ビル群を遠望することができた。いつも楽しみにしているスポットだが今年は雪化粧の向うに蜃気楼のように浮かんでいた。(写真)数年後にはさらに3本の超高層ビルが加わると聞くがそれまで何とか頑張って登り続けたいものである。

山を降り眞禅寺の境内に戻ってもやはり閑散としていた。いつもは焚火の馳走があり地元のボーイスカウトの人たちが豚汁の炊き出しを行なうなど、広場一帯が和やかな雰囲気に包まれているのだが今年は中止になったのであろうか。冷えた体に元気が戻る熱い豚汁の美味しさと焚火を囲む暖かさが懐かしい。
足元をみると砂利であった境内がアスファルトで固められ駐車用の直線が白々しく浮き出ている。新しくやって来た住職の方針で一切が排除されたと聞く。雪の眞禅寺の荘厳な筈の佇まいが何か空疎で冷たい無機質な風景に見えてきた。

かくして10回目を数える今年の元旦登山は些か物足りない感じに終わったが、冬枯れの清々しい雪景色がせめてもの慰めか。登山のあとは団地周辺の鎮守の森へ「三社詣で」(神明神社、天地神社、黒木神社)を行い新年の平穏息災を祈った。

(了)