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70 豆蔵クンの旅『八ヶ岳高原22年版』

平成22年6月9日〜10日



(6月9日)
週間天気予報で梅雨入りの遅れを確認し急遽『豆蔵クンの旅』を実行することにした。まさに“サンデー毎日族”ならではの得意ワザだが、無論のことながら企画担当は相棒(妻)である。
行き先はお気に入りの八ヶ岳高原でネット予約した小渕沢の「リゾナーレ」。
イタリアの建築デザイナー、マリオ・ベリーニが手がけた“ヨーロッパ風のリゾート施設”というのが“売り”で今回は一泊2日の小旅行である。
予報通り9日が曇りのち晴れ、10日快晴と出て朝7時豆蔵の宿泊用具一式を積み込んで出発した。
中央高速道路を快調に走り途中小憩を取りながら10時過ぎに諏訪南ICを出た。車好きの豆蔵クンはすっかりご機嫌である。
最初の目的地は原村の「八ヶ岳自然文化園」。別荘やペンション、農場などが点在する高原の林の中にあり5,000uものドッグ・ラン『わんこのお庭』がある。まずは豆蔵に喜んでもらおうという趣向で案内書と地図と看板を頼りに探し当てた。わが愛車には残念ながら「カーナビ」なる文明の利器がない。
『わんこのお庭』は芝生に白樺の幹が映える美しい公園の中にあり、それだけでも十分に憩える雰囲気で平日のせいか閑散としていた。入場料を払って中に入ると若奥さん風の先客があり、小さなワンチャンが勢いよく走り寄ってきた。豆蔵クンはびっくりしたようだがまんざらでもないらしくすぐ仲良しになって一緒に走り回り始める。

人間同士も同様でさっそく愛犬談義に花が咲き始めた。時々近くの別荘にやってくる『わんこのお庭』の常連サンで侮りがたい愛犬家のようだ。自慢のワンチャンは顔がマルチーズで長い毛がパピオンという交配種である。「そら」クンという名の満一歳の雄犬で、体重2Kgと豆蔵より一回り小さくまん丸の黒い目が愛くるしい。すっかり気が合った二匹は思いっきり駆け回って遊んでいる。(写真)
背中を丸めて弾丸のように駆ける豆蔵は実に頼もしく拍手を送ってやりたい気分だ。一時間ほど遊んでいるうちに随分写真を撮ったが中でも「そら」クンのスナップがなかなかの出来で後日送ってあげることにした。メモに書かれた「そらママ」の住所は横浜市であった。

昼食は近くの「レストラン・オーディーズ」の予定であったが生憎く休業日で「CLOSE」の看板が架かっていた。さすがの相棒もそこまでは調べていなかったようだが、困った様子もなくそれではと隣町の富士見高原にある「カントリー・キッチン」へ行くことにする。無論ペット同伴OKの店で「そらママ」サンもご推奨の店とか、旅のことになるとメッポウ頭が回る相棒の独壇場で、私は専ら案内本を見せられながらハンドルを握るのみ・・・・・。
白樺に囲まれたおしゃれな店でテラスの席に案内された。雲間の青空も次第に拡がって夏の日差しが降り注いでいる。鳥のさえずりに爽やかな涼風という自然の馳走にすっかり酔わされたような気分で、地元の野菜をふんだんに使った店自慢のランチを注文した。豆蔵クンは脇役と自覚したのかここではおとなしく食事の終わるのを待っている。
店内には数組の客がランチを楽しんでいたが、どうやらペット同伴は私たちだけのようであった。
『わんこのお庭』で聞いたらしく相棒の希望で小渕沢の「八ヶ岳アウトレット」に寄る。豆蔵のラガー・シャツや玩具を調達、あくまで豆蔵クンのための小旅行を貫く姿勢のようだ。

あとはお目当てのリゾート施設を楽しもうという寸法で午後3時半早々と到着した。
小渕沢IC近くの背の高い木立の中に一風変わったデザインの洋風建築群が現れた。中央にフロントとホテル棟があり左手に20店舗ほどの多彩なショップとレジデンス棟が並ぶピーマン通り、右手は南アルプスを望む温水プールやリラクゼーション施設を備える広大なリゾート施設である。
私たちが予約し案内されたのはピーマン通りのレジデンス棟で二階の広い一室であった。 両側に石造り風の店舗が並び石畳の路上にはガーデン・セットや色とりどりの花鉢が置かれている。途中に要塞のような円筒形の建物がありところどころに蔦が絡まるなどヨーロッパ風の街を演出しているが、人影も少なく店の中も閑散としていて平日の昼下がりだからとばかりは云えないような静けさは意外であった。(写真は10日午前11時頃のピーマン通り)
部屋へ入ると豆蔵はさっそくクンクンと鼻を鳴らしながら珍しげにあちらこちらと探索を始める。しばらく休んだ後豆蔵クンを連れて散歩に出た。今度は私が一帯の探索開始というわけで明朝予定しているスケッチ・ポイントを探る目的もある。

さて次はお風呂である。
温泉ではなく沸かし湯だが「もくもく湯」と称する独立棟で広々とした大胆な設計になっている。無人だがセキュリティーも行き届いていてあらかじめ宿泊カードに記録されている暗証番号を入力して入場した。他に人影は無く独り占めの男湯に浸かったあとは、用意されている混浴着を腰に巻いて露天風呂に出る。五時半を過ぎたばかりなのでまさかと思ったが先客があり若い女性ばかりの四人のグループが楽しげに談笑していた。
さすがにドキッとしたが挨拶を交わして平静を装いながら片隅に身を沈める。辺りはまだ充分に明るいうえに湯気も無く彼女たちの白い肌が眩しかったが、浴場は広々としていて10mほども離れており残念ながら殆ど無視されているようであった。彼女たちはどこ吹く風と談笑を続け、やがて一人二人と女湯の方へ消えていった。
古希を過ぎた老人では致し方もないかと改めて周囲を見渡す。深く高い木立に囲まれた森閑とした佇まいの中に一人取り残されたような気分であった。

待望の夕食はホテル棟のレストラン「オットセッテ」でイタリアン料理の特選フルコースを奮発している。地元産の素材を活かしたというシェフ自慢の料理はふれ込み通りの美味しさ、ボリュームも適当で味にうるさい相棒もさすがに満足気であった。
・・・・・が、7時に始まって約2時間ものディナー・タイムは私には少々長すぎる感じで、部屋に残してきた“メイン・ゲスト”も気になる。いつになく聞きわけが悪くまとわりついて放れぬ豆蔵を餌でつってハウスに押し込めて出てきたのである。
食事が終わり急いで部屋へ戻ると、不貞腐れたのか諦めたのか豆蔵は静かにハウスに収まっていたが物音に気づいて再び騒ぎ出す。ハウスから出してやるとべったりくっついて離れない。
宥めたり賺したりしながら寝かせようとするがなかなか思うようにいかず、 結局ハウスの中に入れられた豆蔵クンは不満気にクンクン云いながらまんじりともせず夜を過ごすことになった。
私たちはといえば室内が広いのと外に音が漏れる心配が無いのに助けられて何とか必要最低限の睡眠は確保できたようである。

(6月10日)
午前4時、朝の光が忍び込み始めると早くハウスから出せと言わんばかりにゴソゴソと騒ぎ始めた。すばやく着替えをして散歩に連れ出す。日の出前の空は予想通り雲ひとつ無く晴れ渡っていて思わず深呼吸、澄み切った冷気が何とも心地よくこれだけでもやってきた価値があると思えるほどだ。寝不足の筈の豆蔵も元気一杯で安心したが、朝のルーティンである排泄(ウンチ)をしない。やはりどこかリズムが狂っているのであろう。
部屋に戻っても私の傍から離れずぴったりと寄り添い私の動きを監視しているつもりらしい。
朝食は7時30分、今度は同伴OKの「ワイワイグリル」でバイキング、しっかり腹ごしらえをする間豆蔵はお利口ポーズで待っていた。“置いてけぼり”よりはましとでも思ったのだろうか。
その後ピーマン通りでショッピングを楽しむという相棒に豆蔵を託して待望の“自由時間”を得ることができた。絵の具を担いで昨日探しておいたポイントへ直行、さっそくスケッチに熱中する。澄み渡った青空に南アルプス連峰の残雪が美しく輝いていた。(右スケッチ)
「リゾナーレ」のフィナーレはピーマン通りに戻り街角のテラスで一家揃ってのコーヒー・タイム。通りには人影もちらほら、ようやく街らしい雰囲気が感じられるようになっている。
ちょうど制限時間いっぱいの正午にチェックアウトを済ませ満喫した「リゾナーレ」を後にした。

近くの「道の駅」で野菜や土産を買い込んで再び富士見高原方面に向かう。昨日とは逆方向で快晴の陽光に陰影を濃密にした緑と白樺が一段と美しさを増しているようである。
昼食は昨日休業で空振りした「オールディーズ」を再訪する。(下の写真)
さすがに今日は「OPEN」の下げ札が掲げられていて豆蔵クンとともにベランダの屋外席に案内された。緑の風に乗って遠く郭公の声が聞こえ、素敵な環境に触発されてか食欲はいたって旺盛である。豆蔵クンも“ご褒美”にありついてご満悦なのか伏せの姿勢でのんびりと高原の空気を楽しんでいるようであった。
これで予定のスケジュールは終了し後は高速道路で一瀉千里の帰途に就く。
相棒も豆蔵クンもさすがに疲れた様子でぐっすり寝込んでいるが、どうやら家族サービスの役割は充分に果たしたようで午後4時無事に帰投した。

今回の旅で気付いたのは豆蔵の微妙な“心理の綾”である。
いつもは餌やおやつをくれる相棒に関心を払っている豆蔵がこの二日間は私の傍を離れようとせず私の行動を常にマークしているように見えた。私の動く先々に姿を現し、姿が見えないとキャンキャンと駄々をこねるというのだ。どうした風の吹き回しなのか、不安になったとき「頼りになるのはオトウサン」と自覚しているのであろうか。常々散歩に連れ出すのは私なので危険や不安を感じるとき傍にいる私を本能的に求める気持ちが働くのかも知れない。
是非その辺のところの本音を聞きたいものである。
旅に連れて行ってもらった上にラガーシャツやおもちゃを買ってもらった当の豆蔵クン、行く先々で可愛い可愛いと声をかけられ得意満面のようであったが、連れ歩く私たちも悪い気はしない。まあ色々あったが感謝しなければならないのは私達の方かも知れない。

(了)