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06   に た く も じ

 平成14年8月19日(木)

夏バテ回復には「にたくもじ」.....。
このところの食欲減退のピンチを救ってくれているのが、この妙な名前の食べ物である。

ふるさと飛騨地方特有のものだが、「くもじ」というのは野沢菜や白菜、かぶら菜など菜っ葉の漬物の総称で(※註)、冬場の貴重なビタミン源である。桶から出して冷たいまま食べるのが普通の食べ方だが、囲炉裏の火で炙ったり、ゴマ油で煮込んで食べたりするのもなかなかオツなものである。
特に私のお気に入りは煮込んだ漬物、つまり「にたくもじ」で漬物本来の味にゴマ油の甘い風味が沁み込んで実にうまい。

当然土産物として店頭に並ぶ筈なのだが、ビニール袋を通して見える黒々とした中身が一般受けしないのか、売っている店が極めて少ない(写真)。 知っている限りでは、高山市国分寺通りにある漬物専門店「山愛」で、ここに行けば年中10袋程度は置いてあり買いそびれたことは一度もない。

飛騨の漬物といえばやはり何といってもナショナルブランドの「赤かぶ」である。
色々な種類のものが我がもの顔に店の大半を占め、わが愛する「にたくもじ」は実に肩身が狭そうに小さな顔をのぞかせているばかりだ。
帰省するたびに立ち寄り、いとおしくなってつい買い占めてしまうので、店員さんに顔を覚えられる始末である。内心、売れないからといって店頭から姿が消えてしまうのを怖れてもいるのである。

かくして、その「にたくもじ」は女房殿の手料理とともに我が食卓に並ぶことになり、熱いご飯に乗せて実にうまそうに食べる「あるじ」の様子を見るに及んで、狭量なわが女房殿のご機嫌はすこぶる芳しくない。無論名古屋生まれの女房や娘は見向きもしないのである。

漬物は、雪に閉じ込められ食料の乏しかった昔の冬の飛騨地方の貴重な食材で、明けても暮れてもご飯のおかずは味噌と漬物であった。魚にありつけるのは年に2,3回位、そんな貧しい食材でも飛騨の女たちは少しでもおいしく食べさせようと色々と工夫を凝らしたのである。子供の頃のそんな甘酸っぱい郷愁が一段と味に深みを加えているのであろうか。
贅沢三昧のこの頃の食卓に、貧しい時代の象徴のような「にたくもじ」の芳醇な味...こんなところにも私達が置き忘れてきている大切なものを見る思いがする。

近頃同郷人の集まりで話題にのぼるのは、「あずきな」(飛騨山菜の王様)や「なつめ」の煮物、「塩いか」や「わた(内臓)の入ったいかの燻製」、「小芋の煮っころがし」、「菰豆腐」、「朴葉味噌」、「飛騨ぶり」などなど...実に懐かしい。
いつか時間が出来たら昔の飛騨独特の食習慣や食文化について、一編をものにしたいと密かに思っている。

※ 飛騨の湯どころ、味どころに作り方など を紹介しています。


(了)