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57  星野ジャパンの挫折

平成20年8月28日


中国が国の威信をかけて開催した北京オリンピックは予定通りに17日間の幕を閉じた。
少数民族問題や農村の格差問題、大気汚染や官僚汚職、それに直前に起きた大地震の復興など数多くの難題に蓋をし、集会や報道に厳しい規制を敷く中、独裁国家ならではの豪腕で無事閉幕を迎えた。
テロ対策の大義のもと一般社会と完全に隔絶された、あっという間の「夢の舞台」であった。

出来るなら夢であって欲しいと臍を噛む男がいる。
野球代表監督星野仙一である。
昨年“王ジャパンWBC優勝”の後を受けて代表監督に就任した星野は、「狙うメダルは金しかない」と胸を張りプロのトップ選手を網羅して代表チームを編成した。アジア予選を苦戦のすえ勝ち抜いて駒を進めたオリンピックであったが、結果は以下のとおりの惨敗で金メダルはおろか何も手にすることなく帰ることになった。
その軌跡を追ってみよう。
(写真は3位決定米国戦 8回敗色濃厚の日本ベンチ―右端は肩を落す星野監督 日本経済新聞より)
   
       
【予選】 4勝3敗で4位通過、決勝トーナメント進出
13日(20:00)
●日 本
001010000=2
ダルビッシュ−成瀬−田中−藤川
(本塁打)
 キューバ
01102000 =4
14日 (21:00)
○日 本
000011004=6
涌井−岩瀬−藤川−上原
阿部@
 台 湾
000100000=1
15日 (20:00)
 オランダ
000000000=0
○日 本
40000002 =6
杉内−田中−川上
佐藤@
16日 (20:00)
 韓 国
000000203=5
●日 本
000002001=3
和田−川上−岩瀬
新井@
18日 (22:30)
○日 本
000010000=1
成瀬−藤川−上原
稲葉@
 カナダ
000000000=0
19日 (19:00)
 中 国
0000000=0
※ 7回コールド
○日 本
031006 =10
涌井
西岡@
20日 (19:00)
 米 国
00000000004=4
※ 延長11回 タイ・ブレーク
●日 本
00000000002=2
ダルビッシュ−田中−川上−岩瀬
【決勝トーナメント 準決勝】
22日 (10:30)
●日 本
101000000=2
杉内−成瀬−藤川−岩瀬−涌井
 韓 国
00010014 =6
【同 3位決定戦】
23日 (12:00)
●日 本
103000000=4
和田−川上−成瀬−ダルビッシュ
荒木@青木@
 米 国
01304000 =8

辛うじて進出した決勝トーナメントで逆転されての連敗、その不甲斐ない戦いぶりに国民の落胆は大きかった。最強軍団で金メダル濃厚と期待を抱かせていながらこの体たらくと首脳陣への批判は厳しい。野球と同様に今回限りで正式種目から外される女子ソフトボール・チームが激闘の末米国を破って宿願の金メダルを獲得した直後だけになおさらであった。


このような場合の通例だが評論家やマスコミなどが姦しくよってたかって敗因を書き立てる。
それらはおおよそ次のように要約される。
 
@
チーム編成にあたって予選時の編成に拘りすぎて選手個々の現状での体調や実力認識に甘さがあった。情にほだされ冷静な見方が出来なかったともいえる。
チーム編成の理念が「スモール・ベースボール」、小技・足技を駆使しての戦術重視だった筈が、試合振りにその方向が見えず、クリンアップのパワー不足が目立ち投手陣の負担となった。
直前のセ・パ選抜チームとの壮行試合で懸念材料が見えていた。
 
A
コーチング・スタッフを気心のあった盟友で固め、コーチとしての役割認識が不足していた。守備走塁担当の山本は監督経験があってもコーチ能力には疑問符がつくなど。過去の実績や心意気を買っての継投や選手起用について監督への意見具申が適切に出来ていたのかどうか疑わしい。
 
B
情報収集に抜かりはなかったといわれるがその消化・活用が不十分で宝の持ち腐れに終った。
 
C
プロ球界の協力が優勝した韓国と較べて中途半端であった。
ペナントレースを完全に中断し充分な練習期間を提供して国際試合をも組み込んだ韓国に対し、僅か8日間でチーム練習も不十分なまま本番入り、しかもペナントレースは続行するという日本プロ球界の差。さらに韓国ではオリンピック使用球を今年のペナントレースで使用し馴れさせていたという徹底振りである。こうした事実を事前に掴んでいたのかどうか、掴んでいたとしても高をくくっていたのであろう。
 
首脳陣・選手とも国際試合に馴れていなかった。特に審判は各国からの派遣審判で技術水準も低いと見て対処する必要があり、そのことに文句を言っても始まらず監督の腹いせ発言は頂けない。
 
E
「金メダルしかない」と豪語しながらチーム全体に覇気が感じられず、勝利への意欲・執念という点で明らかに韓国やアメリカに劣っていた。前半のリードを何とか守り抜こうという受身の采配が選手を萎縮させているようにも見受けられた。

などなど、毒舌の野村(楽天監督)からは「仲良しグループがちょこっと練習したぐらいで勝てると思っていたのか、投手出身の監督は視野が狭い。」と酷評され、挙句の果てには「一流ホテルの個室を用意する特別待遇までして貰っていたのに・・・・・」などと選手団長に揶揄される始末。骨身を削った星野監督には誠に気の毒だが「勝てば官軍、負ければ賊軍」である。帰国後は一切弁解せずにひたすらお詫びを繰り返す姿は、地に落ちたとはいえ「男・星野」に相応しく少しは救われる気分になるのだが。

あえて私見を言わせて貰えばこの「男・星野」への自己陶酔こそが敗因の全てに関る原因ではなかったか。 中日ドラゴンズ時代の熱血監督、負け犬タイガースを甦らせた成功神話が長嶋、王に続いて日の丸を背負う球界のエースに押し上げ北京五輪を目指すことになった。
“星野が行くところ勝利の美酒あり・・・・・”彼我ともにこれを認める状況になって過信が嵩じ我が身にカリスマを帯びると自認してしまったのではないか。自分が作った軍団(自分ガ声をかけた選手)は自分の意に応えて動き自ずと道は開ける・・・・・と。そのカリスマが敵を知る努力と事前準備を怠り選手選定と起用法に齟齬をきたした時、それを補うだけの力はこうした軍団には備わっていない。また彼を支えるべき球界の協力姿勢にも本気モードが欠けていて、韓国のような挙国体制とは程遠い現実があったことも付け加えなければならない。

夫々の球団に戻った選手達はファンから温かく迎えられ、息を吹き返したように終盤に入ったペナントレースを戦っているが、一方には新井(阪神)や川崎(ソフトバンク)のように故障を悪化させて今シーズンを棒に振ろうとしている選手もいる。
冷静に体調を見極めることなくその気力だけを頼りに起用した結果である。
彼らにとって北京オリンピックとは一体何であったのだろうか。

来年2月には第2回WBCが行なわれる。ディフェンディング・チャンピオンとして如何なる体制で臨むのか、銅メダルさえ取れなかった星野に続投の目は薄く、王は体調に問題を抱えるとなると残る大物は“愚痴の野村”か“変わり者の落合”か・・・・・。
「実力は韓国の方が上」とこぼす選手達に“日の丸の誇り”が戻るだろうか。

(了)