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27  最後の通勤

平成17年2月28日


47年間通い続けた通勤生活もいよいよ最後の日を迎えた。

相変わらず冷え込みは厳しいが気持ちよく晴れ渡った朝、明るいグレーの背広に洗濯し立てのYシャツとネクタイ、おろしたての靴・・・・・と装いを改めて家を出る。時に午前6時10分。
特別な日というのに、いつもの早朝出勤なので家族の見送りがないのは少々物足りないが、それぞれがマイペースの我が家らしく自分で区切りがつけられればそれでいいと言い聞かせる。何年か付き合ってくれた黒い鞄の中にはこの「歴史的」な日のために秘かにデジカメがしのばせてある。
イヤホーンを耳にFM音楽を聞きながら団地の坂道を歩くのはいつもと変わりないが、心なしかリズムも軽やかで、 早朝ウォーキングの老人と交わす挨拶も明るく響く。
駅近くまで来たところでバスターミナルを含めた西可児駅全景をデジカメに収める。昨年増築したエレベーター塔の三角屋根が朝日に映えて美しい。 さらにチラホラと通勤客の姿が見える駅正面のスナップを一枚・・・30年余お世話になっているこの駅の灯りが妙に暖かく懐かしく思えてくる。(写真)
25日で切れている定期券に気づき切符を買ってホームへ。余談ながら名古屋駅まで710円、栄まで地下鉄200円を加えると往復約2,000円の交通費となる。 当たり前のように使ってきた定期券の有難みを改めて思い知らされる。
程なくやってきた電車は中部国際空港開港にあわせて登場した最新モデルでその名も「特急セントレア」。相変わらずの混雑で満席、デッキに立っている人もいる。空港行きなので大きなラゲージを転がす旅行客の姿もあるが、物珍しさの見物客もまだまだ多いようだ。そしていつものように持ってきた朝刊に目を通すのだが、この頃はまず渡辺淳一の連載小説「愛の○○○」から調子を上げることにしている。

出社後は最後の週初会議や引継資料の説明を行ったり身辺整理などに精を出す。夕方には仕事から帰ってきた社員一人一人に元気で頑張ってくれる事を祈りながら別れの挨拶を交わす。女子社員から花束を貰う感激を味わい退社した後は、社長ら有志でセットしてくれた送別会に出席した。会場は偶然にも11年前に歓迎会をやってくれた同じ居酒屋の同じ部屋であり、あらためて時の経過を思ったものである。
いささか気持ちよく飲みすぎて、今まで数え切れないほどやって勇名を馳せてきた「乗り越し無賃乗車」を最後の日にもやってしまった。鵜沼や犬山のホームで最終電車を待つ身は誠に情けないが、今日ばかりは「自分らしい最後の通勤よ」と寒さも忘れて苦笑いでもしたくなる余裕があった。
梯子酒をやった訳でもないのに午前様の帰宅となってしまったが、そこからがいつもと違っていた。
とうに寝込んでいると思った妻と娘が玄関口に出迎え「長い間ご苦労様」と・・・・・。
不覚にも緩みがちの我が涙腺が熱くなってしまった。

かくして我が「最後の通勤」は終わったのだが、長い間さしたる病気をする事もなく常に明るく支え続けてくれた妻に改めてその有難さを感じるとともに、長年にわたって指導支援してくれた先輩諸氏や同僚・後輩の皆さんに衷心より感謝の意を表したいと思う。

(了)