左から伸一さん、りよ子さん、つた子さん

観光客が溢れる街並から少し外れた静かな街の中に山家料理・割烹「蔦」がある。
暖簾をくぐるとすぐ右に板場があり、その奥に衝立で仕切られた三席の座敷があるだけの小さな店だが飛騨高山ならではの心のこもった料理が素晴らしい。
女将の中井つた子さんが昭和47年に自力で家を建てて始めたというお店で、それまで勤めていた老舗「洲さき」での経験を生かし、独自の工夫を重ねて今日の「蔦」を築きあげた謂わば「つた子の料理屋」である。

平成に入って間もなく弟の伸一さんと妹のりよ子さんが加わって血を分けた三人で営む珍しいお店となった。
今年で81歳になるという女将のこだわりは「地元の食材だけを用い飛騨の味付けと地元の器で食べていただく」ことにあり、飛騨の人情がにじむ“おもてなし”の心一筋に営んできたことだろう。
毎朝女将自ら「朝市」に出かけて地元の取れたての野菜や川魚を仕込む。そして飛騨に伝わる調理法で炊かれた山家料理が郷土の名陶・渋草焼の器に盛られて次々と出てくる。勿論りよ子さんの解説付きである。

「胡麻豆腐」や「芋の煮っころがし」、それに「よもぎの五平餅」などのおふくろの味も懐かしい。酒は「山水」「氷室」の飛騨の銘酒。嬉しいことに飛騨の銘木「一位」でこしらえた箸は記念に持ち帰ることが出来る。

初めて訪れて以来10年にもなろうか、すっかりお馴染みになり飛騨高山の味を紹介するには「蔦」に限ると決めて家族や友人等と暖簾をくぐっている。
余談ながら女将のアイデアで始めた「よもぎの五平餅」が大当たりで、高山祭りでは店先に”長蛇の列”が出来たとか。
80を越したとはとても思えぬ女将の溌剌とした「奮闘振り」である。(平成17年11月)

※ 令和元年12月26日、女将中井つた子さんが94才の生涯を終えた。いつも盛り沢山の飛騨の味で迎えてくれた女将の優しい表情が懐かしい。今は只ひたすらに御冥福を祈るのみ.......。

山家料理 割烹「蔦」


高山市下二之町57−2
TEL 0577-33-3549
定休日 毎週木曜日
am12:00〜pm2:00 pm5:00〜9:00